
三井住友建設株式会社と同社九州支店の作業所長が、建設現場で発生した労働災害について、労働基準監督署に事実と異なる報告をした疑いで書類送検されました。
書類送検されたのは三井住友建設だけではありません。事故が起きた工事に関係していた下請会社や、その代表者らについても、労働者死傷病報告を遅滞なく提出しなかった疑いが持たれています。
「労災かくし」という言葉だけを見ると、事故そのものを隠した企業がすべて同じ行為をしたように感じるかもしれません。しかし、鹿児島労働局が公表した資料では、三井住友建設側と下請会社側で疑われている行為が異なります。
この記事では、事故の経緯、書類送検された理由、三井住友建設の対応を整理します。あわせて、障害者雇用を含め、企業への応募を検討している人が安全管理やコンプライアンス体制を確認するときのポイントも解説します。
三井住友建設と作業所長らが書類送検された
加治木労働基準監督署は2026年7月14日、三井住友建設株式会社、同社九州支店の作業所長、株式会社友和工業、同社代表取締役、株式会社餅井建設の代表取締役を、労働安全衛生法違反などの疑いで鹿児島地方検察庁加治木支部に書類送検しました。
問題となったのは、鹿児島県霧島市で行われていた「令和3年度隼人道路清水川橋工事」です。一般有料道路の4車線化に伴う橋梁工事で、発注者は西日本高速道路株式会社九州支社でした。
元請は、三井住友建設と竹中土木による特定建設工事共同企業体です。三井住友建設が代表者となり、一次下請として餅井建設、二次下請として友和工業が工事に参加していました。
事故で作業員が腰椎圧迫骨折などを負った
労働災害が発生したのは2024年6月3日です。
二次下請会社である友和工業の労働者が橋梁の型枠組立作業をしていたところ、移動式クレーンで吊り上げていた型枠材が落下し、作業員に当たりました。
被災者は肩や腰などを負傷し、事故当日に受診した医療機関では打撲と捻挫と診断されました。しかし、痛みが引かなかったため改めて精密検査を受けたところ、腰椎椎体圧迫骨折などが判明しました。
被災者は、この負傷の療養のため合計44日間休業しています。
三井住友建設側に持たれている2つの疑い
今回の書類送検では、関係者全員が同じ違反を疑われているわけではありません。三井住友建設と同社の作業所長については、主に次の2つの行為が問題とされています。
統括管理状況報告に事故を記載しなかった疑い
大規模な建設工事では、労働基準監督署長が元請業者に対し、下請業者への指導状況や工事現場の安全管理状況について、定期的な報告を求めることがあります。
今回の工事でも、元請業者は3か月に1回、下請業者への指導や指示、安全管理の状況などを「統括管理状況報告」として提出するよう命じられていました。
しかし、三井住友建設九州支店の作業所長は、2024年4月から6月までの報告を提出した際、同年6月3日に発生した労働災害を全く記載しなかった疑いが持たれています。
事故の記載がなかったことから、労働基準監督署は、虚偽の内容を記載した統括管理状況報告を提出した可能性があると判断しました。
立入調査で事故件数について虚偽の説明をした疑い
2025年4月8日、労働基準監督官が工事現場に立ち入り、労働災害の発生状況について調査しました。
鹿児島労働局の公表資料によると、実際には工事現場で3件の労働災害が発生していたにもかかわらず、作業所長は「発生した労働災害は2件のみ」という趣旨の説明をした疑いが持たれています。
労働基準監督官は、労働安全衛生法に基づき、事業場への立入りや関係者への質問を行う権限を持っています。その質問に対して虚偽の陳述をした場合も、同法に基づく処罰の対象となる可能性があります。
つまり、三井住友建設側に持たれている疑いは、労働者死傷病報告そのものを提出しなかったことではなく、元請として提出する安全管理の報告に事故を記載しなかったことと、立入調査で事故件数について事実と異なる説明をしたことです。
労働者死傷病報告を提出しなかった疑いは下請会社側
休業4日以上の労働災害が発生した場合、労働者を雇用している事業者は、所轄の労働基準監督署長に労働者死傷病報告を提出しなければなりません。
今回の事故では、被災者を雇用していた二次下請会社である友和工業の代表取締役が、一次下請会社である餅井建設の代表取締役と共謀し、報告書を遅滞なく提出しなかった疑いが持たれています。
事故が発生したのは2024年6月3日でしたが、報告書が提出されたのは、捜査が始まった後の2026年1月23日だったとされています。
この点は、三井住友建設側に持たれている虚偽報告の疑いとは、違反の主体も内容も異なります。「三井住友建設が労働者死傷病報告を提出しなかった」と書くと、鹿児島労働局の発表内容とは異なるため注意が必要です。
労災かくしとは何か
厚生労働省は、労働者死傷病報告を故意に提出しなかったり、虚偽の内容を記載して提出したりして、労働災害の発生を隠す行為を、一般的に「労災かくし」と呼んでいます。
労働者死傷病報告は、単に事故件数を記録するためだけの書類ではありません。行政が事故の原因を分析し、同じような労働災害を防止するための対策を検討する際にも使用されます。
事故が報告されなければ、危険な作業方法や設備上の問題が見過ごされ、同じ現場や別の工事現場で同様の事故が繰り返される可能性があります。
また、事故を隠されることで、被災者が適切な労災保険給付を受けられず、治療費や休業中の生活費に困るケースも考えられます。そのため、労働基準監督署は労災かくしに対して、書類送検を含む厳しい対応を取っています。
労災事故が起きたこと自体と労災かくしは別の問題
建設工事では、高所作業、重機、クレーン、資材の運搬など、重大な事故につながる可能性のある作業が行われます。安全対策を実施していても、事故の発生を完全にゼロにすることは簡単ではありません。
そのため、事故が発生したことだけで、直ちに企業全体の安全管理が機能していないと判断することはできません。
一方で、事故が発生した後に正しく報告すること、原因を調査すること、被災者を補償すること、再発防止策を実施することは、企業や工事関係者に求められる基本的な責任です。
今回の問題で重要なのは、事故の発生だけでなく、その後の報告や労働基準監督署への説明が適切だったのかという点です。
同じ工事が安全衛生の優良事業場として表彰されていた
今回の問題を考えるうえで注目したいのが、事故が発生した工事に対する過去の表彰です。
鹿児島労働局は2025年7月1日、「三井住友建設・竹中土木特定建設工事共同企業体 令和3年度隼人道路清水川橋工事」を、安全衛生水準が極めて高く、ほかの模範となる事業場として「鹿児島労働局優良賞」に選んでいました。
事故が発生したのは2024年6月3日で、作業所長が労働基準監督官に事実と異なる説明をしたとされる立入調査は2025年4月8日です。その後、同年7月1日に同じ工事が表彰されています。
ただし、今回疑われている虚偽報告や虚偽陳述が、表彰の審査や選定に影響を与えたかどうかは、公表資料では説明されていません。
そのため、「事故が隠されていたから表彰された」と断定することはできません。一方で、企業から行政へ提出される安全衛生情報の正確性が、事故防止だけでなく、事業場に対する評価の信頼性を保つうえでも重要であることが分かります。
三井住友建設は謝罪し再発防止を表明
三井住友建設は書類送検翌日の2026年7月15日、公式サイトで謝罪文を公表しました。
同社は、隼人道路清水川橋工事で発生した労働災害について、同社社員が所轄労働基準監督署に事実と異なる報告をしていたことなどにより、会社、社員、協力会社とその社員が書類送検されたと説明しています。
関係者に謝罪したうえで、社員に対する法令順守の指導を徹底し、再発防止に努めるとしています。
一方、2026年7月23日時点で公表されている謝罪文には、事故が報告されなかった経緯、社内調査の実施状況、関係者への処分、具体的な再発防止策などは記載されていません。
今後、会社からより詳しい調査結果や改善策が公表されるかが注目されます。
公式サイトでは安全衛生方針を掲げている
三井住友建設は公式サイトで、「ゼロ災に基づくものづくり」を理念とし、安全・健康・快適な職場の実現を目指すとしています。
また、三井住友建設労働安全衛生マネジメントシステムを運用し、元請、支店、作業所、協力会社が連携して、事故防止や安全衛生水準の向上に取り組む方針を示しています。
しかし、企業が安全方針やコンプライアンス方針を掲げていることと、すべての現場でその方針が適切に運用されていることは同じではありません。
今回の書類送検を受け、会社がどのように事実関係を検証し、現場の報告体制や管理監督を改善するのかが重要になります。
書類送検は有罪が確定したという意味ではない
今回の発表は、三井住友建設などが労働安全衛生法に違反した疑いで、事件の書類を検察庁に送られたという段階です。
書類送検後は、検察官が証拠や関係者の説明を確認し、起訴するか、不起訴にするかを判断します。起訴された場合でも、最終的に有罪か無罪かを判断するのは裁判所です。
したがって、現時点で三井住友建設や関係者の違反が確定したと表現することはできません。
記事やSNSで紹介する場合も、「労災かくしをした会社」「虚偽報告を行ったことが確定した」などと断定せず、「疑いで書類送検された」「労働基準監督署が事実と異なる報告をした疑いがあると発表した」と記載する必要があります。
三井住友建設への応募を検討する人が確認したいこと
今回の書類送検だけを理由に、三井住友建設のすべての部署や社員について、働きにくい会社だと判断することはできません。
事故が発生したのは特定の建設工事であり、障害者雇用の職場環境や合理的配慮について直接示す事件ではないからです。
ただし、事故や体調不良を適切に報告できる職場か、問題が起きたときに事実を正確に共有する企業文化があるかは、障害の有無にかかわらず重要です。
事故や体調不良を報告できる仕組み
障害者雇用では、通院、服薬、症状の悪化、疲労、仕事内容との相性などについて、上司や人事に相談しなければならない場面があります。
問題が起きたときに、現場の上司だけでなく、人事、産業医、保健スタッフ、コンプライアンス窓口などへ相談できるかを確認しましょう。
直属の上司に相談しにくい場合に備えて、複数の報告ルートが用意されている企業のほうが安心して働きやすくなります。
合理的配慮が現場まで共有されるか
採用面接や人事担当者との面談で合理的配慮を約束しても、実際に働く部署や現場責任者へ内容が伝わっていなければ、配慮は実施されません。
応募時には、配慮事項を誰が管理するのか、異動した場合にどのように引き継ぐのか、定期面談があるのかを確認しておきましょう。
建設会社でも、施工管理、設計、技術、営業、事務、経理、人事など、職種によって勤務環境は大きく異なります。会社全体の情報だけでなく、応募する職種や配属予定の部署について確認することが大切です。
面接で聞いておきたい質問
- 体調が悪化した場合は、誰に相談することになっていますか
- 直属の上司以外に相談できる窓口はありますか
- 合理的配慮の内容は、配属先へどのように共有されますか
- 入社後に配慮内容を見直す面談はありますか
- 障害者雇用で働く社員の定着支援は、誰が担当していますか
- 安全上の問題やヒヤリハットを報告する仕組みはありますか
- 内部通報を行った社員を保護する制度はありますか
面接で安全管理や相談体制について質問することは、企業を疑っているという意味ではありません。安心して長く働くために、必要な情報を確認する行為です。
三井住友建設への応募を検討している人は、求人情報や会社の公式発表だけでなく、実際に働いた人の口コミも確認してみてください。
仕事中にけがをした場合は労働基準監督署へ相談できる
仕事中や通勤中にけがをした場合は、労災保険給付の対象になる可能性があります。
労災保険の給付には、治療に関する療養補償給付、休業した場合の休業補償給付、障害が残った場合の障害補償給付などがあります。
会社から「健康保険を使ってほしい」「労災にしないでほしい」と言われた場合でも、その場で従う必要があるとは限りません。事故が起きた日時、場所、作業内容、目撃者、会社とのやり取りなどを記録し、最寄りの労働基準監督署へ相談してください。
医療機関を受診するときも、仕事中または通勤中の負傷であることを伝えましょう。
体調悪化や会社とのトラブルで退職を考えている場合は、勢いで退職届を提出する前に、診断書、メール、チャット、面談記録などを保存しておくことも大切です。
よくある質問
三井住友建設が労災かくしをしたことは確定していますか?
確定していません。2026年7月14日時点では、労働安全衛生法違反の疑いで書類送検された段階です。今後、検察官が起訴または不起訴を判断します。
三井住友建設が労働者死傷病報告を提出しなかったのですか?
鹿児島労働局の公表資料では、労働者死傷病報告を遅滞なく提出しなかった疑いが持たれているのは、被災者を雇用していた二次下請会社の代表者と、一次下請会社の代表者です。
三井住友建設と同社の作業所長については、統括管理状況報告に事故を記載しなかった疑いと、立入調査で事故件数について事実と異なる説明をした疑いが示されています。
事故に遭った作業員はどの程度休業したのですか?
型枠材が当たり、腰椎椎体圧迫骨折などを負ったとされ、療養のため合計44日間休業しています。
三井住友建設は今回の問題について謝罪していますか?
三井住友建設は2026年7月15日に謝罪文を公表し、社員に対する法令順守の指導を徹底するとともに、再発防止に努めるとしています。
障害者雇用への応募をやめたほうがよいですか?
今回の問題だけで、三井住友建設のすべての障害者雇用や職場環境を判断することはできません。応募職種、配属先、相談体制、合理的配慮の運用、定着支援の実績などを個別に確認して判断しましょう。
まとめ
三井住友建設と同社九州支店の作業所長は、建設現場で発生した労働災害について、統括管理状況報告に記載しなかったことや、労働基準監督官に事実と異なる説明をした疑いで書類送検されました。
事故では、下請会社の作業員が腰椎圧迫骨折などを負い、合計44日間休業しています。労働者死傷病報告を遅滞なく提出しなかった疑いについては、下請会社側の代表者らが対象です。
三井住友建設は謝罪し、法令順守の指導と再発防止を表明しました。ただし、現時点の公表文では、詳しい原因や具体的な再発防止策までは示されていません。
企業への応募を判断するときは、ひとつのニュースだけで会社全体を決めつけないことが大切です。一方で、事故や体調不良を正しく報告できるか、問題を隠さず改善できる組織かは、働き続けるうえで重要な判断材料になります。
特に障害者雇用では、合理的配慮が現場まで共有されるか、体調悪化時に複数の相談先があるか、問題を伝えたことで不利益を受けない仕組みがあるかを確認しましょう。
参考資料
- 鹿児島労働局「労働安全衛生法違反容疑で書類送検」
- 三井住友建設「書類送検について(お詫び)」
- 鹿児島労働局「令和7年度安全衛生に係る鹿児島労働局長表彰式」
- 厚生労働省「労働災害が発生したとき」
- 三井住友建設「安全衛生の取り組み」
※本記事は2026年7月23日時点で公表されている資料をもとに作成しています。書類送検は有罪判決が確定したことを意味するものではありません。今後、起訴・不起訴の判断や会社から新たな発表があった場合、内容が変更される可能性があります。
※本記事は一般的な情報提供を目的とするものであり、個別の法的判断を行うものではありません。労災申請や会社とのトラブルについては、労働基準監督署、労働局、法テラス、弁護士などへご相談ください。
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