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障害のある子の「親なきあと」は何から準備する?家族の86%が不安

障害のある子どもや家族を支えている人にとって、「自分が高齢になったら、この子はどう暮らすのか」「自分が亡くなった後、誰が通院やお金の管理を支えるのか」という不安は、簡単には答えを出せない問題です。

日本財団が障害のある人の家族2,500人を対象に行った調査では、85.5%が「親なきあと」に不安を感じていると回答しました。特に重度知的障害者の家族では92.5%に達しています。一方、「親なきあと」に向けて何らかの準備をしている家族は57.0%で、裏を返せば43%は準備を始められていません。

準備が進まないのは、家族が将来を真剣に考えていないからではありません。「将来の生活にいくら必要か分からない」「どのような制度や選択肢があるか分からない」といった、情報不足や見通しの立てにくさが大きな理由です。

親なきあとの準備は、相続対策や成年後見制度だけでは終わりません。住まい、日常生活を支える人、お金、通院、福祉サービス、本人の希望まで、生活全体を少しずつ整理する必要があります。

この記事で分かること

  • 障害者の「親なきあと」とは何を指すのか
  • 家族が今から確認したい6つの項目
  • 成年後見制度や家族信託を急いで決めなくてよい理由
  • 相談支援専門員や自治体へ相談するときの準備
  • 大分県の「親なきあと相談室」の取り組み

障害者家族の85.5%が「親なきあと」に不安

福祉新聞は2026年7月24日、社会福祉法人大分県社会福祉事業団が県内6カ所に設けている「親なきあと相談室」を紹介しました。

大分県社会福祉事業団は2017年1月から、相談支援事業所を窓口として親なきあと相談室を運営しています。研修を受けた相談員が、家族の漠然とした不安を受け止めたうえで困りごとを整理し、必要に応じて司法書士や社会保険労務士などの専門家につなぐ仕組みです。

相談は無料で、匿名でも利用できます。これまでに寄せられた相談は300件を超え、住まい、支える人、財産管理、健康、生活、金銭面など、さまざまな問題が扱われています。

親なきあとは、一つの制度を利用すれば解決する問題ではありません。たとえば、お金を管理する人が決まっても、毎日の服薬を確認する人がいなければ生活は安定しません。グループホームが決まっても、本人に合わない環境であれば長く暮らせない可能性があります。

そのため、まずは「何が不安なのか」を家族だけで抱え込まず、相談員と一緒に分解することが大切です。

参考:福祉新聞「障害者家族の不安に寄り添う 大分県社会福祉事業団の親なきあと相談室」

障害者の「親なきあと」とは

「親なきあと」という言葉から、親が亡くなった後だけを想像する人もいるかもしれません。しかし実際には、親や家族が高齢化したり、病気になったり、入院したりして、これまで続けてきた支援ができなくなる状態も含まれます。

親が元気であっても、急な入院や事故によって、ある日突然支援できなくなる可能性があります。そのため、「まだ元気だから先の話」と考えるのではなく、元気なうちに少しずつ準備することが重要です。

特に、知的障害や精神障害があり、家族が次のような支援を日常的に行っている場合は、早めに引き継ぎ方法を考えておく必要があります。

  • 食事、掃除、洗濯などの日常生活の支援
  • 通院への同行や服薬の確認
  • 預貯金、生活費、公共料金などの管理
  • 障害福祉サービスの申請や更新
  • 支援機関や行政との連絡
  • 体調悪化や災害時の対応
  • 本人が苦手なことや必要な配慮の説明

親なきあとの準備とは、親の役割を一人のきょうだいや親族へそのまま渡すことではありません。家族が担っている役割を整理し、福祉、医療、行政、法律の専門家など、複数の人や機関で支えられる形へ変えていくことです。

親なきあとに向けて確認したい6項目

親なきあとの不安をすべて一度に解決しようとすると、何から始めればよいか分からなくなります。まずは、生活を次の6項目に分けて確認してみましょう。

1.本人がどこで暮らしたいか

最初に確認したいのは、親が支援できなくなった後に本人がどこで暮らすかです。

選択肢には、現在の自宅で支援を受けながら暮らす、きょうだいや親族と暮らす、グループホームを利用する、障害者支援施設へ入所するなどがあります。ただし、家族が希望する住まいと、本人が安心して暮らせる住まいが同じとは限りません。

グループホームは、障害のある人が共同生活を送りながら、相談や日常生活上の援助を受ける障害福祉サービスです。しかし、支援体制、夜間職員の有無、医療との連携、入居者との相性、部屋の環境、費用などは事業所によって異なります。

親が亡くなってから急いで探すのではなく、本人が元気なうちに見学や体験利用を検討すると、向き不向きを確認しやすくなります。すぐに入居する予定がなくても、地域にどのような選択肢があるかを知っておくことが準備になります。

住まいについては、市区町村の障害福祉窓口、基幹相談支援センター、相談支援専門員などへ相談できます。

2.親以外の支援者を増やす

親なきあとに備えるうえで、特に重要なのが、本人のことを知っている人を家族以外にも増やすことです。

日本財団の調査では、親なきあとのキーパーソンとして「兄弟姉妹」を想定している家族が30.5%と最も多くなりました。一方、「まだ決まっていない・分からない」と答えた家族も約3割います。

きょうだいが本人を気に掛けることは大切ですが、住まい、金銭管理、通院、福祉サービス、緊急対応を一人ですべて引き受けるのは大きな負担です。きょうだいが遠方に住んでいたり、自分の仕事や子育て、介護を抱えていたりする場合もあります。

家族だけで支え続けるのではなく、次のような人や機関とつながっておきましょう。

  • 相談支援専門員
  • 市区町村の障害福祉窓口
  • 基幹相談支援センター
  • 利用中の障害福祉サービス事業所
  • 主治医、看護師、医療ソーシャルワーカー
  • 地域生活支援拠点
  • 社会福祉協議会
  • 成年後見制度や相続に詳しい司法書士・弁護士

相談支援専門員は、障害福祉サービスの利用計画を作成したり、本人や家族の困りごとを整理したり、必要な事業所と調整したりする役割を担います。

現在セルフプランでサービスを利用しており、相談支援専門員がいない場合は、市区町村に相談支援事業所を紹介してもらえるか確認しましょう。

関連記事:就労移行支援とは?障害者雇用との違い・向いている人・利用方法を解説

3.収入と財産の情報を整理する

親なきあとでは、「財産をいくら残すか」だけでなく、本人が毎月どのような収入を受け取り、何にいくら支払っているかを把握する必要があります。

まずは、次の情報を一つにまとめてみましょう。

  • 障害年金やその他の公的給付
  • 給与、工賃、手当などの収入
  • 本人名義の預貯金口座
  • 生命保険や共済
  • 家賃、食費、医療費、福祉サービスの自己負担
  • 携帯電話、インターネット、公共料金などの契約
  • クレジットカードや定期的な引き落とし
  • 不動産や相続する可能性のある財産
  • 通帳、印鑑、年金証書などの保管場所

口座番号や暗証番号を誰でも見られる場所に置くのは危険ですが、「どの金融機関に何の口座があるか」「必要書類をどこに保管しているか」は、信頼できる人が確認できるようにしておく必要があります。

障害年金を受給していない場合でも、病気や障害によって日常生活や仕事に大きな制限があれば、対象になる可能性があります。ただし、病名や手帳の有無だけで受給が決まるわけではありません。年金事務所や社会保険労務士などへ個別に相談してください。

関連記事:障害年金の申請方法|診断書・申立書・社労士相談のポイント

4.通院・服薬・障害特性を記録する

家族が普段から通院に同行したり、薬を準備したりしている場合、その支援が突然なくなると、治療や生活が不安定になる可能性があります。

次の内容を紙やデータにまとめておきましょう。

  • 通院している医療機関と診療科
  • 主治医や薬局の連絡先
  • 服用している薬と服用時間
  • アレルギーや過去の病歴
  • 体調が悪化する前に見られる変化
  • パニックや混乱が起きたときの対応方法
  • 苦手な音、光、場所、コミュニケーション
  • 緊急時に避けてほしい対応
  • 健康保険証、障害者手帳、自立支援医療などの情報

本人が自分で説明することが難しい場合は、「困ったときにどのような声掛けをすると落ち着くか」「反対に、どのような対応をされると混乱するか」まで残しておくと、支援者が対応しやすくなります。

大分県では、医療機関、利用施設、本人ができることや苦手なこと、必要な配慮、生活スタイル、好きなことなどを記録する「わが子の記録」を作成しています。大分県外に住んでいる人でも、同じような項目を参考にして独自の引き継ぎノートを作れます。

5.福祉サービスの利用状況を整理する

障害福祉サービスは、一度利用を始めれば自動的に継続されるとは限りません。受給者証の更新、サービス等利用計画の見直し、事業所との契約などが必要になる場合があります。

現在利用しているサービスについて、次の情報を確認しておきましょう。

  • 利用している事業所名と担当者
  • 利用曜日と時間
  • 受給者証の有効期限
  • サービス等利用計画の内容
  • 相談支援専門員の連絡先
  • 利用者負担額
  • 送迎、食事、服薬確認などの支援内容
  • 体調不良時や緊急時の連絡方法

就労継続支援A型・B型、生活介護、居宅介護、短期入所、グループホームなど、複数のサービスを利用している場合は、誰が全体を調整しているかも重要です。

事業所の担当者だけに情報を集中させず、相談支援専門員や自治体ともつながっておくと、事業所の変更や閉鎖があった場合にも相談しやすくなります。

関連記事:就労継続支援A型とB型の違い|雇用契約・工賃・向いている人を解説

6.本人が希望する生活を確認する

親なきあとを考えるとき、家族は安全性や費用を優先しやすくなります。しかし、最も大切なのは、本人がどのような生活を望んでいるかです。

言葉で希望を説明することが難しい人でも、日々の表情や行動から分かることがあります。

  • どのような場所で落ち着いて過ごせるか
  • 一人の時間と人と過ごす時間のどちらを好むか
  • 好きな食べ物、音楽、テレビ、活動
  • 苦手な人の多さ、騒音、予定変更
  • 今後も続けたい仕事や日中活動
  • 会いたい人や関係を続けたい人
  • 自分で決めたいこと
  • 支援してほしいこと

一度確認して終わりではなく、本人の年齢や体調、経験に合わせて定期的に見直しましょう。

親なきあとの準備は、親が本人の将来を一方的に決める作業ではありません。本人の意思を中心にしながら、必要な支援を周囲で組み立てる作業です。

成年後見制度や家族信託はすぐ必要なのか

親なきあとについて調べると、成年後見制度、家族信託、遺言といった言葉を目にします。しかし、すべての家庭に同じ制度が必要なわけではありません。

成年後見制度とは

成年後見制度は、認知症、知的障害、精神障害などによって判断能力が十分ではない人を法律面から支援する制度です。家庭裁判所が選任した成年後見人等が、預貯金などの財産管理や、福祉サービス・施設利用に必要な契約などを行います。

一方、成年後見人が本人の食事を作ったり、毎日介護したり、通院へ直接付き添ったりする制度ではありません。成年後見制度を利用しても、日常生活を支える福祉サービスや支援者は別に必要です。

また、現行制度では、本人の判断能力や必要な支援の程度に応じて、後見、保佐、補助という仕組みがあります。2026年6月には制度を見直す改正法が公布されましたが、施行は公布から2年6カ月以内とされているため、実際に利用を検討するときは最新の制度を家庭裁判所や専門家へ確認してください。

参考:法務省「成年後見制度・成年後見登記制度」

家族信託だけで生活全体を支えられるわけではない

家族信託は、財産をどのように管理・承継するかを設計する方法の一つです。しかし、本人の身の回りの支援、福祉サービスの調整、通院、日常的な意思決定まで自動的に担う制度ではありません。

財産管理について家族信託が合う家庭もあれば、遺言、生命保険、成年後見制度、日常生活自立支援事業など、別の仕組みが合う家庭もあります。

「親なきあとには家族信託が必要」「成年後見を早く申し立てるべき」と一つの方法に決めつけず、本人の判断能力、財産、家族関係、住まい、必要な支援を整理してから専門家へ相談しましょう。

相談する専門家を目的で分ける

相談内容主な相談先
住まい・福祉サービス・生活支援相談支援専門員、自治体、基幹相談支援センター
成年後見・遺言・相続・家族信託司法書士、弁護士、公証役場
障害年金・社会保険年金事務所、社会保険労務士
税金・相続税税務署、税理士
通院・服薬・健康管理主治医、看護師、医療ソーシャルワーカー

最初から相談先を完璧に選ぶ必要はありません。まず自治体や相談支援専門員に相談し、必要な分野の専門家を紹介してもらう方法もあります。

親なきあとの準備は何から始めればよい?

準備を始めるときに、いきなりグループホームへの入居や成年後見制度の利用を決める必要はありません。まずは家族の頭の中にある情報を、外へ出すことから始めましょう。

最初の1週間でできること

  1. 家族が行っている支援を書き出す
    食事、通院、服薬、お金、役所の手続きなど、親が普段していることを一覧にします。
  2. 緊急連絡先を整理する
    親以外に連絡できる人、医療機関、利用事業所、自治体の窓口をまとめます。
  3. 重要書類の場所を確認する
    手帳、受給者証、年金証書、保険証、通帳などがどこにあるかを確認します。
  4. 本人の希望を一つ確認する
    住みたい場所、続けたい活動、苦手な環境など、話しやすい項目から確認します。
  5. 相談窓口を一つ決める
    相談支援専門員、市区町村、基幹相談支援センターなどへ連絡します。

すべてを完成させる必要はありません。「分からない」「まだ決まっていない」という項目が見つかること自体が、重要な準備です。

家族だけで結論を出さない

家族の中だけで考えていると、不安が大きくなり、極端な結論に傾くことがあります。

「親が亡くなったら施設へ入れるしかない」「きょうだいが全部引き受けるしかない」「多額のお金を残さなければ生活できない」と決めつける前に、地域で利用できる制度や支援を確認しましょう。

本人が現在利用しているサービスの支援員にも、将来について相談できます。本人の生活を知っている支援者から、家族が気付いていない選択肢を提案してもらえることもあります。

大分県では無料・匿名の「親なきあと相談室」を利用できる

大分県社会福祉事業団の親なきあと相談室は、県内6カ所に設置されています。相談員が不安や困りごとを聞き、課題を一緒に整理したうえで、必要に応じて専門家や関係機関へつなぎます。

「今すぐ困っているわけではない」「何を相談すればよいか分からない」という段階でも相談できます。親なきあとについて漠然と不安を感じているだけでも、相談する理由として十分です。

大分県外に住んでいる場合は、市区町村の障害福祉窓口、基幹相談支援センター、相談支援事業所、社会福祉協議会などに、親なきあとについて相談できる窓口があるか確認してみましょう。

大分県内の相談窓口や連絡先は、次の公式ページで確認できます。

障害者の親なきあとに関するよくある質問

親が元気なうちから相談してもよいですか?

相談して問題ありません。むしろ、親と本人が元気で、本人の希望を確認できる時期のほうが、住まいの見学や支援者との関係づくりを進めやすくなります。今すぐ困っていなくても、将来の不安を整理するために相談できます。

グループホームへ入れば親なきあとも安心ですか?

グループホームは住まいの有力な選択肢ですが、入居するだけですべての問題が解決するわけではありません。日中活動、通院、金銭管理、休日の過ごし方、緊急時の対応なども確認する必要があります。本人との相性もあるため、可能であれば見学や体験利用を検討しましょう。

きょうだいを後見人に決めておけばよいですか?

家族が希望する人を候補者として申し立てることはできますが、実際に誰を成年後見人等に選任するかは家庭裁判所が判断します。また、きょうだい一人に生活支援や財産管理を集中させると負担が大きくなるため、福祉や医療の支援者を含めた体制づくりが必要です。

財産が少なくても準備は必要ですか?

必要です。親なきあとで問題になるのは相続財産だけではありません。毎月の生活費、障害年金、家賃、通院、福祉サービスの契約、緊急連絡先など、日常生活を継続するための情報整理が重要です。

本人が将来について話したがらない場合はどうしますか?

無理に結論を求める必要はありません。「施設へ行きたいか」と大きな質問をするのではなく、「静かな場所とにぎやかな場所のどちらが落ち着くか」「今の生活で続けたいことは何か」など、答えやすい内容から確認しましょう。本人をよく知る支援者に参加してもらう方法もあります。

成年後見制度と家族信託のどちらがよいですか?

本人の判断能力、財産の内容、必要な契約、家族構成によって異なります。家族信託は主に財産管理の仕組みであり、日常生活全体を支援する制度ではありません。成年後見制度も、直接介護を行う制度ではありません。相談支援専門員と生活面を整理したうえで、司法書士や弁護士へ相談しましょう。

まとめ|最初に必要なのは制度の契約ではなく情報の共有

日本財団の調査では、障害のある人の家族の85.5%が親なきあとに不安を感じていました。一方で、43%は具体的な準備を始めていません。

親なきあとは、相続や成年後見だけの問題ではありません。

  • 本人がどこで暮らすか
  • 誰が日常生活を支えるか
  • 収入や財産をどう管理するか
  • 通院や服薬をどう続けるか
  • 福祉サービスを誰が調整するか
  • 本人の希望を誰が把握しているか

これらをまとめて考える必要があります。

ただし、最初からすべてを決める必要はありません。まず、家族が普段している支援を書き出し、本人の希望や医療情報、利用サービス、緊急連絡先を整理してみましょう。

親なきあとの準備とは、親がいなくなる日のためだけに行うものではありません。本人がこれからどのように暮らしたいかを考え、家族以外にも相談できる人を増やしていく作業です。

不安が漠然としている段階でも、相談して構いません。相談支援専門員や自治体の障害福祉窓口へ、「親なきあとについて、何から整理すればよいか分からない」と伝えるところから始めてみてください。


本記事は一般的な制度と準備の考え方を紹介するもので、個別の法律・税務・年金上の判断を行うものではありません。成年後見、遺言、相続、家族信託、障害年金などについては、自治体や家庭裁判所、司法書士、弁護士、社会保険労務士、税理士などへご相談ください。

参考資料

-障害福祉ニュース